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 天皇、皇后両陛下が27日、私的旅行で静岡県に入った。午後に袋井市梅山を訪れ、ベトナムの独立運動指導者ファン・ボイ・チャウの活動を支援した医師浅羽佐喜太郎(あさばさきたろう)の石碑を視察した。今年は碑建立100年の節目。地元は盛り上がりをみせている。
 袋井市梅山の常林寺。境内に高さ約2・3メートルの碑が立つ。100年前、フランスからの独立を目指して日本へ留学生を送る「東遊(ドンズー)運動」を展開したチャウが、日本滞在中に世話になった佐喜太郎への追慕と、ベトナム独立への願いを込めて地元の人々と協力して建てたものだ。
 両陛下は昨年のベトナム訪問でチャウの記念館を訪れており、佐喜太郎とチャウの交流に感銘を受け、今回の視察も両陛下の意向で実現した。
 佐喜太郎がチャウを支援したことは、当時フランスと友好関係にあった日本の意向に反するものだった。そのため子孫らは長い間積極的に語らず、功績が広く知られることはなかった。
 「埋もれた歴史に光を当てて下さり、佐喜太郎も喜んでいるのでは」と中村真典(しんてん)住職(54)は話す。住職となった約20年前は、碑の周囲も手入れが行き届いておらず、地元でもあまり知られていなかったという。
 ログイン前の続き2001年ごろ、ベトナム人留学生が卒論で取りあげるため訪れたことをきっかけにベトナムと地元の人々との交流が始まり、03年にはチャウの孫やベトナム大使館幹部も出席して建立85周年記念式が開かれた。その後市民の有志が「浅羽ベトナム会」をつくり、ドキュメンタリーの上映会などで交流を深めた。
 12年には袋井商工会議所などを中心に市民訪問団を結成、現地の工業団地などを視察した。人手不足の市内の企業はベトナム人技術者を受け入れ、日本語学校に通うベトナム人も増えた。13年には佐喜太郎とチャウの絆を描いた両国共同製作のドラマも放送された。袋井市では常林寺の碑建立100年の今年、ベトナムの若者を招いてのサッカー大会やベトナム映画の上映会なども開かれた。
 両陛下は今年7月に常林寺を訪れる予定だったが、西日本豪雨で取りやめに。それだけに地元の人々の期待も高まる。
 原田英之市長は「佐喜太郎の存在、物語を多くの人に知ってもらうこの上ない機会」と期待する。浅羽ベトナム会の安間幸甫代表(74)も「日越関係や両国の歴史を深く知るきっかけになればいい」と話す。
 中村住職は「佐喜太郎の功績がさらに認められ、身内の方も肩の荷が下りるのでは。両国の新たなつながりの場になってくれれば」と話している。
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 浅羽佐喜太郎(1867~1910) 静岡県袋井市梅山(旧東浅羽村)生まれ。神奈川県で開院し、フランスからの独立を目指してベトナムの青年を日本に留学させる「東遊(ドンズー)運動」を展開したファン・ボイ・チャウ(1867~1940)を物心両面で支援した。だが日本政府はフランス政府の要請を受けて留学生に国外退去を命じ、チャウは09年に出国。佐喜太郎の死後、ひそかに日本を訪れたチャウは18年、浅羽家の墓がある常林寺に地元の人々と協力して碑を建立した。