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21/02/2020

Nông cụ hàng bãi và công nghiệp hóa nông nghiệp Việt Nam (góc nhìn người Nhật)

Quả thật là khoảng gần 20 năm về trước, có một đàn anh rủ mình đưa nông cụ hàng bãi Nhật Bản về Việt Nam. Gọi là đánh hàng về để kiếm lợi nhuận. Một ý tưởng thực sự tiên phong ! Sau đó, anh thực sự vào cuộc.

Bây giờ, đàn anh đã bỏ cả gia đình ở Nhật mà về Việt Nam rồi (lần trước tới thăm, thì không còn gặp anh nữa, đọc nhanh ở đây - từ mùa hè năm 2016).

Bây giờ là một bức tranh về nông cụ hàng bãi Nhật Bản và công nghiệp hóa nông nghiệp Việt Nam.

Có các thuật ngữ quan trọng sau về canh tác nông nghiệp hiện nay:

- 3 R,
circular economy

Loạt bài khá thú vị. Cứ tạm đưa về đây đã.


Tháng 2 năm 2020,
Giao Blog
























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PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051496
2019年10月
(1,342字)
ベトナム中部、ビンディン省の農村へ行ってきた。ちょうど稲刈りの季節ののどかな農村風景を見ることができた。ビンディン省は、ベトナムの中でも工業化が遅れた地域であり、所得も低く、昔からの変わらぬ農村風景が残っているのは、経済発展の後れの裏返しでもある。
しかし、筆者には見慣れているはずの農村風景も、じっくり見てみるとちょっとした違和感を覚える。まず目を引いたのは、刈られた稲が作る不思議な幾何学模様である(写真1)。この地域特有の稲刈りの慣習でもあるのかと地元の人に聞いてみると、これは近年、稲刈り機の導入にともない見られるようになったものだという。
写真1 稲刈り直後に田んぼにできた模様。(2018年8月)
写真1 稲刈り直後に田んぼにできた模様。(2018年8月)
写真2がその稲刈り機である。見てのとおり、日本から輸入された中古の草刈り機(刈払機)に長い歯をつけた改造品である。さらに歯の周りにガードをつけ、刈った稲が一定方向に倒れるような工夫も施されている。ベトナムの他の多くの地域では、1台200万円以上するコンバインの導入が進んでいるが、貧しい中部のこの地方では、このようなローカルな発明品による農作業の機械化が行われていた(写真3は改造前の草刈り機)。
写真2 草刈り機を改造した稲刈り機。(2018年8月)
写真2 草刈り機を改造した稲刈り機。(2018年8月)
写真3 改造前の草刈り機。(2019年10月)
写真3 改造前の草刈り機。(2019年10月)
変化したのは稲を刈る方法だけではなかった。稲刈りはもはや家族や共同体単位で行う作業ではなく、お金を払って業者に委託する作業になっている。稲刈りの季節には、4~5 人で構成されるたくさんの稲刈りチームが、バイクであちらこちらの田んぼを回って稲刈りを請け負っているという。稲刈りの季節に農家が行うのは、脱穀(これも脱穀チームに委託 !)後の稲わらを運搬する作業のみである。
さらによく見ると、田んぼに若者の姿をほとんど見かけない。この村では、多くの若者がホーチミンに出稼ぎに行ってしまい、定住して戻って来ないのだという。ベトナムの製造業が出稼ぎの若者たちで支えられている一方で、農村では高齢化が確実に進行している。中古の草刈り機を改造したこの稲刈り機は、農村の高齢化による労働力不足を解決するためのローカルな知恵、イノベーションなのである。
今回から5回の掲載を予定している本連載では、本稿筆者がベトナムで見つけた、ローカルなイノベーションが詰まった改造農業機械と、それらが作られ使われている現場の風景を紹介していく。
(本稿は、『IDEニュース』2018年12月号に掲載された「ベトナム・ビンディン省の草刈り機」を加筆修正したものです。)
写真の出典
  • 写真1、2  筆者撮影
  • 写真3   坂田虎之介撮影
著者プロフィール
坂田正三(さかたしょうぞう)。アジア経済研究所バンコク研究センター次長。専門はベトナム地域研究。主な著作に、『ベトナムの「専業村」――経済発展と農村工業化のダイナミズム』研究双書No.628、アジア経済研究所 2017年、「ベトナムの農業機械普及における中古機械の役割」(小島道一編『国際リユースと発展途上国――越境する中古品取引』研究双書No.613、アジア経済研究所 2014年)、など。
https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Column/ISQ000010/ISQ000010_001.html



PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051508
2019年11月
(1,969字)
『改良・改造手作り農機傑作集』(トミタ・イチロー著、農文協)という本がある。初版の出版が1992年、2013年に第25刷を発行しているロングセラーである。著者が日本中の農家を歩いて廻り、そこで見つけた農業機械の部分的な、あるいは大掛かりな改造の例がイラスト入りで紹介されており、農業の経験のない本稿筆者にも楽しく読める。さらに、改造で使われる工具の使い方やスクラップ利用の工夫など、読者自身による改造を手助けする具体的な方法も紹介されている。
この本を読むと、日本とベトナムとの農業機械の改造の違いがよく分かる。日本では多くの場合、農家自身が機械に関する知識や技術を持ち、自ら改造を行ってきたようである。同書のまえがきに、農業機械の改造とは、「作業を少しでも楽に効率よくしようと」するための創意工夫であると述べられている。市販の機械はあくまでも汎用性のある量産品であり、農家が土地の状況や生産規模、気候、生産品種に適応させるために機械に改造を加え、「一点モノ」を作ることが日本でも行われてきたのである。それはおそらく、使用者が使用後の中古としての(高値での)再販を念頭に置かないゆえにできることであろう(いわゆる暴走族による一見奇妙な自動車、バイクの改造もまた同じ心理が働いているのだろうか)。
一方ベトナムでは、農村の農業機械の販売店で修理・改造が行われる。農業機械改造がビジネスとして成立しているのである。メコンデルタ地域の農業機械販売店が中古の農業機械と部品をホーチミン近辺の輸入業者から仕入れ、地域の条件に合わせた改造を加え、農家に販売し、さらに、壊れた機械の修理も行っている(写真1)。
写真1 農村の中古農業機械販売店
写真1 農村の中古農業機械販売店(ドンタップ省タップムオイ県、2018年9月)
農業機械販売店の経営者の多くは、2000年代前半からの農業機械の急速な普及に伴い、新たに修理・改造ビジネスを始めた。元は農家やバイク修理屋などを営んでいた人たちであるが、技術者としての教育や特殊な訓練を受けたわけではないのに、機械の豊富な知識に加え溶接や簡単なネジ切りができる技術も持っている。農業機械の普及は、農家の所得向上や日系メーカーの現地生産の開始だけがその要因ではなく、機械の修理や改造のニーズを満たす専門の業者や、それらに中古機械や部品を供給する輸入業者が登場し、農業機械化のためのエコシステムが出来上がったことにより促進されたといえる。
写真2 コンバインを改造した籾運搬車
写真2 コンバインを改造した籾運搬車(アンザン省トアイソン県、2013年10月)
ベトナムのメコンデルタ地域の条件に合わせた改造の一例が写真2である。これは、コンバインのエンジンと走行部以外をすべて取り払い(!)、そこに荷台を取り付けた、稲刈り後の籾の運搬車である(写真3左は輸入された状態のコンバイン。右は籾運搬車改造用に不要な部品が取り払われている状態)。この運搬車は2010年前後に初めて製造され、その後メコンデルタ地域中に広まったと言われている。誰が初めてこの運搬車を作ったのか明らかではないらしいが、今ではメコンデルタ地域の稲刈り風景に欠かせないものとなっている。
写真3 輸入時のコンバイン(左)と不要な部品が取り払われたコンバイン(右)
写真3 輸入時のコンバイン(左)と不要な部品が取り払われたコンバイン(右)(ロンアン省タイアン市、2018年5月)
このような運搬車が普及したのは、メコンデルタ地域の米作のふたつの特徴によるものである。まず、メコンデルタ地域の水田は広く、あぜ道も舗装されていないために、収穫した籾をグレインタンクに貯めてあぜ道に止めたトラックに積み替えるという、近代的な方法で収穫することは難しい。収穫しつつ籾を袋に詰め、その籾袋を水田の外まで運搬する必要がある。次に、メコンデルタ地域はコメの2期作、3期作が可能であるため、雨季に稲刈りシーズンが重なる。雨季でぬかるんだ水田では走行部が4輪タイヤではなくクローラー(ゴムのキャタピラ)のこの改造車(写真4)が活躍することになる。中古のコンバインを全く別の用途に使うというその発想の大胆さがベトナムの面白さである。
写真4 稲刈り後の運搬風景
写真4 稲刈り後の運搬風景(アンザン省トアイソン県、2014年8月)
写真の出典
  • 写真1~3  筆者撮影
  • 写真4       荒神衣美氏撮影
著者プロフィール
坂田正三(さかたしょうぞう)。アジア経済研究所バンコク研究センター次長。専門はベトナム地域研究。主な著作に、『ベトナムの「専業村」――経済発展と農村工業化のダイナミズム』研究双書No.628、アジア経済研究所 2017年、「ベトナムの農業機械普及における中古機械の役割」(小島道一編『国際リユースと発展途上国――越境する中古品取引』研究双書No.613、アジア経済研究所 2014年)、など。

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051532
2019年12月
(1,763字)
ベトナムでは、主に日本から輸入された中古農業機械が修理・改造され、農村で使われている。今回は、これら中古農業機械が日本で集められベトナムの農村で販売されるまでの流れを見ていくことにしよう。
Global Trade Atlasというオンライン貿易データベースによると、過去10年間、ほぼ毎年日本から2万台以上、多い年で3万台ものトラクター(耕耘機も含む)がベトナムに輸出されている。そのほとんどは中古品である。日本の輸出業者によると、最も売れているのは1990年代あるいはそれ以前に製造された中古品であるという。日本では一般的に農業機械の年間使用時間が短いため、10年以上使用したものでも新品とほぼ同じ機能が保たれており、安価で、ベトナムで修理が困難な電子部品も装備されていないからである。
日本でベトナムへの農業機械の輸出を始めたのは、難民として日本にやってきた定住者たちであったという。群馬県の伊勢崎市や大阪府の八尾市といった、ベトナムからの定住者が数多く居住する地域に中古農業機械の買取り・輸出業者が今でも多いのは、そのためである。近年は、ベトナム出身者以外にも、インターネットを通した買取りを行いベトナムに輸出する業者も増えている。
日本では、全国各地の農業機械が横浜や神戸などのいくつかの大きな港から輸出されているが、ベトナム側では、そのほとんどがホーチミンの港で荷揚げされる。ホーチミンからメコンデルタ地域に向かう国道1号線沿い、ロンアン省のベンルック県からタイアン市にかけて、中古農業機械の輸入業者が軒を連ねるエリアがある(写真1)。国道1号線沿いの輸入業者は、単に輸入した中古農業機械をそのまま販売するのではなく、修理・整備をし、さらに分解して部品取りを行ったりもする(写真2)。
写真1(左)日本から輸入された耕耘機、写真2(右)耕耘機からエンジンだけを取り出し販売する業者。
写真1(左)日本から輸入された耕耘機(ロンアン省タイアン市、2019年8月)。
写真2(右)耕耘機からエンジンだけを取り出し販売する業者。耕耘機のエンジンは、
船外機やポンプなど幅広い用途で使われる(ロンアン省ベンルック県、2018年5月)。
これら国道1号線沿いの輸入業者では、農業機械の改造はほとんど行われない。改造をするのはこれらの店に買い付けに来る農村の農業機械販売店である。改造といってもさまざまなレベルのものがあり、トラクターに取り付けるロータリーの爪のピッチや形状を変えるという小さな改造から、耕耘機のエンジンの船外機などへの転用、さらにはコンバインの籾運搬車への改造といった大掛かりなものまである。なかには、エンジン、ギアボックス、シャーシなどをそれぞれ別々に調達し、自作の耕耘機を作ってしまうDIY系販売店もある(写真3)。
写真3 ほぼ手作りの代掻き用耕耘機
写真3 ほぼ手作りの代掻き用耕耘機(アンザン省トアイソン県、2017年8月)。
日本の中古コンバインは、主に前回紹介した籾の運搬車への改造を目的として輸入されてきた。メコンデルタ地域を中心とする南部のコメ生産地では、田植えではなく籾の直播が一般的であり、条植え条刈り仕様の日本の一般的なコンバインが使えないためである。しかしこの2年ほどの間に、比較的新しいモデルの中古コンバインが、稲刈り用として輸入されはじめている(写真4)。輸入業者に聞くと、田植えをする北部や中部で輸入中古コンバインの需要が拡大しているという。水田面積が小さく機械導入には不向きとされてきた北部、貧困世帯が多く農業機械を購入できる農家が少なかった中部でも、いよいよ農業機械化の波が押し寄せてきているようである。
写真4 ベトナム北部、中部で売れ始めている日本の中古コンバイン
写真4 ベトナム北部、中部で売れ始めている日本の中古コンバイン (ロンアン省タイアン市、2019年8月)。
写真の出典
  • すべて筆者撮影
著者プロフィール
坂田正三(さかたしょうぞう)。アジア経済研究所バンコク研究センター次長。専門はベトナム地域研究。主な著作に、『ベトナムの「専業村」――経済発展と農村工業化のダイナミズム』研究双書No.628、アジア経済研究所 2017年、「ベトナムの農業機械普及における中古機械の役割」(小島道一編『国際リユースと発展途上国――越境する中古品取引』研究双書No.613、アジア経済研究所 2014年)、など。
https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Column/ISQ000010/ISQ000010_003.html


PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051541
2020年1月
(1,988字)
かつて、「適正技術論」という概念が一世を風靡した時代があった。途上国の経済発展と技術進歩のあり方について論じるものである。余剰労働力が豊富な途上国では、先進国の進んだ技術をそのまま導入することは経済発展に寄与せず、むしろ雇用を奪い、環境を破壊するなどの弊害の方が大きい。途上国には「適正な」、すなわち安価で入手でき、高度な知識を必要とせず、それでいて手仕事よりも生産効率を高める、現地の経済・社会環境に適合した技術が必要とされるという考え方である。
時代的には「適正技術論」の登場より随分遡るが、日本で開発された歩行型の耕耘機は適正技術の典型例のひとつとしてよく紹介される。日本では、戦前に政府主導でアメリカから大型のトラクターが導入されたものの、本来畑作用に作られたアメリカ製のトラクターは日本の水田に適合せず、定着しなかった。そこで、岡山県南部の農機具メーカーの技術者により、日本の水田の状況に合わせた歩行型の「自動耕耘機」が開発され、戦後日本中に普及していった(加古1986)。
現在のベトナムの状況は、戦前の日本とも、途上国の「適正技術」の必要性が盛んに議論されていた1970〜1980年代とも異なる。ベトナムの農家は、国産品から輸入品まで、最新モデルから数十年使用済みの中古品まで、幅広い選択肢のなかから農業機械を選べる。インターネットを通してサンプルを見たり注文したりすることもできる。適正技術論とは外来技術のミスマッチをどのように克服するかという課題であったといえるが、経済自由化と情報技術の普及が進んだ現在は、導入される外来技術のミスマッチという問題は起こりにくくなっている。
とはいえ、輸入農業機械を導入する場合、必ずしもそのまま使えるわけではなく、若干のミスマッチは生じる。そこで機械に改造が加えられることになる。典型的なものは、トラクターの作業機であるロータリーの爪の付け替えである。同じメコンデルタ地域でも場所により土の質や水田の水の量が異なるため、地域の状況に合わせて異なる長さや形状の爪を使い分けるという。爪と爪の間のピッチも日本で使われるものより短い(写真1)。また、トラクターや耕耘機のゴムタイヤの車輪を鉄の車輪に付け替えるのもよく行われる改造である。水を張った水田に鉄の車輪をつけたトラクターを走らせ、固まった土をほぐしながら耕起していく(写真2)。
写真1 ロータリーの軸も爪の付け替えがしやすい形状になっている
写真1 ロータリーの軸も爪の付け替えがしやすい形状になっている (アンザン省ロンスエン市、2017年8月)
写真2 鉄の車輪を付けたトラクター
写真2 鉄の車輪を付けたトラクター(ティエンザン省カイベー県、2016年8月)
一方、ベトナム農村で、ある意味で最も適正な外来技術といえるのは、水冷式ディーゼルエンジンであろう。構造が比較的単純で簡単に使いこなせるため技術のミスマッチが起こりにくく、しかも多様な用途で使える万能の機械である。たとえば、運搬車の動力として用いられるほか、船外機、灌漑用ポンプ、籾の乾燥機など、ディーゼルエンジンはさまざまな手作り・改造機械の重要なパーツになる。農機メーカーは、多用途での使用を想定したエンジンを製品として販売しているが、ベトナム農村で使われるエンジンの多くは、中古耕耘機を解体して取り出したエンジンである(写真3、4、5)。
小型の水冷式ディーゼルエンジンそのものは1930年代に開発されたものであり、いわば「枯れた」技術の機械である。そのような枯れた技術が最先端ICT技術であるスマートフォンとほぼ同時期に普及し、ベトナムの農村生活を豊かなものにしている。今日の途上国の経済発展のユニークな点でもあり、経済発展と技術進歩の関係を論じることの難しさでもある。
写真3 耕耘機に荷台をつけた運搬車
写真3 耕耘機に荷台をつけた運搬車(ザーライ省プレイク市、2012年9月)
写真4 耕耘機のエンジンは船外機にもなる
写真4 耕耘機のエンジンは船外機にもなる(アンザン省トアイソン県、2013年10月)
写真5 ディーゼルエンジンの普及はベトナム農村を変えた
写真5 ディーゼルエンジンの普及はベトナム農村を変えた(ハウザン省ヴィンタイン市、2018年5月)
写真の出典
  • 写真1、3、4、5  筆者撮影
  • 写真2  荒神衣美氏撮影
参考文献
  • 加古敏之1986.「農業における適正技術の開発と普及――自動耕耘機の分析――」『経済研究』第37巻、第3号、193-207ページ。
著者プロフィール
坂田正三(さかたしょうぞう)。アジア経済研究所バンコク研究センター次長。専門はベトナム地域研究。主な著作に、『ベトナムの「専業村」――経済発展と農村工業化のダイナミズム』研究双書No.628、アジア経済研究所 2017年、「ベトナムの農業機械普及における中古機械の役割」(小島道一編『国際リユースと発展途上国――越境する中古品取引』研究双書No.613、アジア経済研究所 2014年)、など。



PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051574
2020年2月
(2,160字)
2010年代半ばに登場した環境分野の新たなバズワードに、「サーキュラー・エコノミー」(circular economy)というものがある。大量生産・大量消費型経済から循環型の経済へ転換していこうという取り組みを推進するため、ヨーロッパ各国の政府や企業が最近よく使っている言葉である。日本も2000年代前半から「3R」(リユース・リデュース・リサイクル)といった言葉を国際的に流通させようとがんばっているが、3Rより幅広い範囲の経済活動もサーキュラー・エコノミーの範疇に含まれているようである。例えば経済協力開発機構(OECD)の文献では、工業生産における原材料やCO2の削減、今流行りのシェアリング・ビジネス(シェアバイクや配車サービスなど)も推奨されている(OECD 2018)。
今回は、ベトナムの改造農業機械の普及は農業生産性を上げるだけでなく、サーキュラー・エコノミー形成という観点からも評価されてよいのではないか、という話をしたい。
まず、改造が施される農業機械のほぼすべては中古の機械の再利用であるという点はポイントが高い。しかも数十年も前に生産され、日本の農村で使われずに眠っていた機械も多い。機械生産と廃棄がもたらす環境負荷が減らされるわけである。一方、中古機械が改造されることで多くの農家が安価に機械を入手できるようになったため、牛が鋤を牽いていた時代に比べれば、ディーゼル燃料の消費は増えており、これは環境にマイナスである。しかも中古の改造品は新品に比べれば燃費は悪い。また、修理・改造時に排出されるエンジンオイルなどが水路に垂れ流される点もマイナスである。
とはいえ、筆者が強調したいのは、ベトナムのもったいない精神というか使い倒し文化が、サーキュラー・エコノミーの形成に大きく貢献しているという点である。ベトナムでは、日本に比べて農業機械の年間の使用時間が圧倒的に長い。つまり、農家は機械を使い倒す。これは、農家が一家に一台トラクターやコンバインを所有しているわけではなく、所有している農家が水田の耕起や稲刈りを請け負うためである。耕起や稲刈りシーズンにできるだけ多くの客から作業を請け負うべく、農業機械は使い倒され、そして短いサイクルで買い換えられる。例えば、筆者がアンザン省で行った2018年の調査では、一台のコンバインは年間平均330ヘクタール、最大750ヘクタールもの水田で稲を刈り、3年〜5年で買い換えられることがわかった。ほとんどの農家が自前のトラクターやコンバインを持ち平均2ヘクタール強の水田で農業を営んでいる日本とは、コンバインの作業環境は大きく異なる。
買い替えサイクルが短いことは、環境的によくないのは確かである。しかし、役目を終えた農業機械はすぐに廃棄されるわけではなく、そのほとんどは修理され中古として売られたり、解体され部品のストックとして改造屋に保管されたりする(写真1)。さらに、本連載第2回で紹介したような籾運搬車をはじめとする別の機械に改造されたりもする。中古部品の用途はわれわれの想像以上に幅広い(写真2)。そして鉄製の部品は、最後には鉄スクラップとして溶融され、全く別の製品の原材料に姿を変える。本来の機械の役割を終えた後も、徹底的に使い倒されるのである。
写真1 廃車コンバインから解体した部品のストック
写真1 廃車コンバインから解体した部品のストック(アンザン省ロンスエン市、2018年8月)。
写真2 運河から水田に水を引く灌漑ポンプ。耕耘機のエンジンが使われている
写真2 運河から水田に水を引く灌漑ポンプ。耕耘機のエンジンが使われている (アンザン省トアイソン県、2017年8月)。
とはいえ、どれだけ徹底的に使い倒しても、コンバインのクローラーやトラクターのタイヤなど、原材料リサイクルにも使えない部品はどうしても残ってしまう。実際、メコンデルタ地域の農村のそこかしこに、使い古しのクローラーが積み上がっている(写真3、4)。修理や改造を重ねて農業機械を徹底的に使い倒すことで、ベトナム農村流サーキュラー・エコノミーが形成され、その規模を拡大している一方で、廃棄物を適正に処分するキャパシティがないことが、大きな課題となっている。
写真3 使用済みクローラー。コンバインの作業時間が長いためクローラーの消耗も激しく、頻繁に交換される
写真3 使用済みクローラー。コンバインの作業時間が長いためクローラーの消耗も激しく、
頻繁に交換される(ロンアン省タイアン市、2017年8月)。
写真4 クローラーの再利用
写真4 クローラーの再利用(アンザン省トアイソン県、2018年8月)。
写真の出典
  • すべて筆者撮影。
著者プロフィール
坂田正三(さかたしょうぞう) アジア経済研究所バンコク研究センター次長。専門はベトナム地域研究。主な著作に、『ベトナムの「専業村」――経済発展と農村工業化のダイナミズム』研究双書No.628、アジア経済研究所 2017年、「ベトナムの農業機械普及における中古機械の役割」(小島道一編『国際リユースと発展途上国――越境する中古品取引』研究双書No.613、アジア経済研究所 2014年)、など。

【連載目次】
ベトナム改造農機傑作選

https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Column/ISQ000010/ISQ000010_005.html?utm_source=hootsuite&utm_medium=&utm_term=&utm_content=&utm_campaign=
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